作業療法士(OT)は、リハビリ専門職の一つとして、理学療法士や言語聴覚士と同じように国家資格です。
作業療法士は日常生活の基本的動作の改善を目的とした作業療法を行う仕事で、国家試験の合格率は、年度によってばらつきがありますがおよそ80パーセント前後。
直近の平成27年度は87.6パーセントと比較的高い合格率となっています。
平成27年度の国家試験受験者数は6102人と平成24年度と比べて1000人近く増加しています。
作業療法士(OT)の主な仕事内容と役割
病気や怪我により身体的に不自由さや障害を持つ人に対して、日常生活動作を訓練・指導する作業療法士(OT)の仕事は、リハビリ分野の中でも身体的・精神的な内容となっています。
身体的リハビリの目的は、食事をするために「箸を持つ」「箸を口に運ぶ」などの動作、またトイレに行くために「ドアを開ける」「水を流す」などの動作をスムーズに行えるようにすること。患者さんによってその内容は大きく異なります。
また、精神的リハビリとは、精神障害を持つ人などを対象に、ストレスを発散させたり考え方を変えたりすることで社会復帰を図るリハビリです。
作業療法士の仕事は「急性期」「回復期」「維持期」に大きく分かれます。 求人もこうした仕事内容が記載されている場合が多いですから、それぞれの仕事内容をしっかりと把握しましょう。
急性期リハビリ
目的
急性期リハビリとは、病気や事故があってから治療を行った数日後~1ヶ月ほどの期間に行うリハビリです。
主な目的は、治療後・手術後に体の機能を使わないことで元に戻らなくなる「廃用症候群」の予防と「早期離床」。
リハビリを早く開始すればするほど、術後や治療後の回復に良い影響を及ぼしますから、医師や他のリハビリスタッフとチームで患者さんのリハビリスタートをサポートします
内容
作業療法士が担当する急性期リハビリの主な内容は全身状態のリスクを把握しながら手や足を動かす練習です。
ベッドサイドや病室で行われることが多く、食事の訓練やトイレの練習などが具体的な内容です。
また、その後の回復期リハビリを見据えて急性期リハビリで患者さんの回復後の望みをヒアリング、回復期リハビリに向けた準備を始めることも急性期リハビリにおける作業療法士の重要な役割です。
回復期リハビリ
回復期リハビリとは、急性期を経て回復期にある患者さんに対して、最大6カ月間行われるリハビリです。
目的
患者さんが日常生活に戻った時、生活の中でできることを増やしていくことが回復期リハビリの主たる目的。
発症前・負傷前の生活や仕事を考えながら、社会復帰や自宅復帰をスムーズに行うための準備、練習をサポートする仕事です。
内容
回復期にあたる患者さんへの作業療法は、主に心身機能の維持・向上に向けて治療道具などを用いて、体を動かす練習をします。
例えば着替えをする際に「ボタンを留める」「袖に手を通す」などの動作が必要ですが、こうした動作を患者さんと一緒に練習していきます。
患者さんの生活の質向上に向けて、その方にあったリハビリ内容を考えるのも、大切な作業療法士(OT)の仕事です。
維持期リハビリ
目的
病気や怪我の治療・手術から時間が経ち、回復スピードが鈍化した維持期は発症や負傷から半年後くらいから始まります。
患者さんの全身状態が落ち着いていることから、生活の質を向上させることが意地期リハビリの主な目的に。
また、作業療法を通じてこれからの人生で生きていくことの意欲を持ってもらえるよう、精神面でのサポートも維持期リハビリの目的の一つです。
内容
療養病床に入院している方、自宅復帰をされた方など維持期リハビリにあたる患者さんの状況は様々です。
そのため、維持期に行う作業療法は単なる動作の練習だけでなく、実際の日常生活に合わせた内容となるため多岐にわたることも。
通所リハビリでは集団で行うことが増えてきますので、楽しみながら取り組んでもらえるような場づくりの工夫も必要となってきます。
訪問リハビリ
目的
作業療法士の大切な仕事の一つが、退院後通院が諸事情により難しい患者さんの自宅を訪問し、日常生活に必要な動作がスムーズに行えるよう、作業療法を行う訪問リハビリです。
訪問リハビリは患者さんの生活の場に直接入っていくため、病院の中で行うリハビリとはまた少し違ったアプローチとなることも。
自宅で安心して暮らせるようにお手伝いするのが訪問リハビリの主な目的です。
内容
作業療法士の訪問リハビリは、これまでできてきたことを維持したり、日常生活において患者さんができることを増やしていくためのリハビリです。
実際の作業療法に加えて、家族や患者さんに対して自宅の中で過ごしやすくするための住宅環境の改善をアドバイスすることも訪問リハビリの一つ。
また、患者さんが生き甲斐を感じて生活してもらえるよう、社会復帰を望む方へのサポートをするなど、生活すべてが訪問リハビリの携わる分野と言えるでしょう。
障害別のリハビリ
作業療法士が担当するリハビリは、障害の内容によって異なります。「身体障害」「精神障害」「老年期障害」「発達障害」など、それぞれの障害をきちんと把握し、患者さんにあったリハビリプランを提案できるかが、作業療法士の腕の見せ所です。
どの分野を専門的に進みたいのか、オールマイティに対応できる人材になりたいのかをご自身でも深く考え、キャリアにおける強みとできるよう、研鑽を続けていきましょう。
作業療法士の1日のスケジュール
作業療法士の1日は、訪問リハビリを行う方、病院に勤務している方などによりスケジュールが異なります。
ここでは、代表的な作業療法士の職場である病院内で働く作業療法士Aさんの1日のスケジュールをご紹介します。
<医療機関に勤務する作業療法士の場合>
8:30 | 出勤 |
9:00 | 他職種とのミーティング、医師や看護師、理学療法士など各分野の専門職員とカンファレンス、リハビリ内容やスケジュールを確認 |
9:50 | 作業療法の準備 |
10:00 | 患者さんの病室で急性期のリハビリ |
11:00 | リハビリ室でのリハビリ |
12:00 | 病室で食事のリハビリ |
13:00 | 休憩 |
14:00 | 午後のミーティング・カンファレンス |
14:30 | 午前中と同じようにリハビリ(10名程度) |
17:00 | カルテの記録、リハビリ計画の作成 |
18:00 | 帰宅 |
病院で働く作業療法士は、午前中・午後とそれぞれ10名以上の患者さんのリハビリを担当することもよくあることです。そのため、リハビリ時間が始まれば休む暇がないこともしばしば。
人数が多くても、一人一人に丁寧に対応する対応力や患者さんのやる気をサポートするための人間力が求められてきます。
作業療法士(OT)が働く職場と役割
もっともポピュラーな職場は医療現場
主な職場
- 病院
主な役割
作業療法士の活躍の場として、もっともポピュラーなのは病院などの医療現場です。
病院内にあるリハビリルームなどでのリハビリだけでなく、病室でのリハビリが行われることもあり、急性期・回復期に当たる患者さんのリハビリをサポートしていきます。
また、退院後の患者さんが病院にリハビリに通うこともあり、こうした維持期に当たる患者さんの作業療法も大切な作業療法士の仕事です。
福祉現場でも活躍の場
主な職場
- 介護老人保健施設
- 介護施設
- 障害者福祉施設など
主な役割
作業療法士の専門性を求め、介護施設などでも作業療法士を配置しているところは少なくありません。
利用者の方の日常生活支援が主な役割となりますが、病院での作業療法とはまたちがうアプローチを取ることもあり、現場でも作業療法士をリハビリのプロフェッショナルとして考えてくれます。
そのため、深い専門性を発揮する場として活躍の場も広がっています。
作業療法士の年収・給料・賞与
待遇や給与などが現場によっても大きく変わる作業療法士。
一般的には病院や医療機関と福祉施設を比較すると、福祉施設の方が給与水準は低くなることが多いと言われています。
また、理学療法士との給与の差はそれほどありません。 正規スタッフとして働く以外にもパート・アルバイト・非常勤など多様な働き方があります。
作業療法士の平均年収は404万円
作業療法士の平均年収を厚労省が発表している「平成27年賃金構造基本統計調査」から見てみましょう。
理学療法士と作業療法士が同じくくりとして捉えられているため、作業療法士の年収は理学療法士と同じです。
- 月額給与:28.4万円
- 平均年収:404.79万円
平成27年賃金構造基本統計調査より
作業療法士・理学療法士ともに、平均年収は勤務先規模によって大きく変化することはなく、10~99人規模の事業所がもっとも平均値が高い415万円となっています。
ボーナス平均は63.9万円
年齢が上がるにつれ、平均年収が上がっていく傾向にある作業療法士。ボーナスも年代により少しずつ上がり、55~59歳でもっとも平均が高くなっています。
女性の方が少し低い傾向にありますが、出産や子育てなどによりパート・非常勤として働く女性がいることを考えると、働き方が男性と同じであれば男女間でそれほど差がないと考えられます
- 20~24歳:男性33.1万円、女性38.9万円
- 25~29歳:男性69.6万円、女性65.0万円
- 30~34歳:男性71.9万円、女性66.0万円
- 35~39歳:男性76.1万円、女性68.3万円
- 40~44歳:男性74.0万円、女性20.9万円
- 45~49歳:男性82.2万円、女性81.4万円
- 50~54歳:男性88.3万円、女性94.0万円
- 55~59歳:男性1125.8万円、女性112.0万円
平成27年度「賃金構造基本統計調査」より
作業療法士(OT)を取り巻く環境と将来性
人材不足が解消されたものの発展途上にある作業療法
作業療法士は、かつては人材不足と言われていたものの、社会的認知度が高まったこともあり、現在は不足感が一旦落ち着いています。
同じリハビリ専門職である理学療法士と重なる部分もあると考えられることも多いことから作業療法と理学療法との違いを明確にした上で、作業療法士としての役割をしっかりと担っていかなければいけないとも言われています。
しかしながら、作業療法は生活に密接に関わる分野だからこそ、作業療法の新たな可能性や形がこれからさらに整備されていくと言えるでしょう。
発達分野・老年期障害の現場が今注目の分野
高齢化を迎え、今まで医療現場での活躍が多かった作業療法士の活躍の場として介護施設などの老年期障害の現場でのニーズがますます高まってきています。
特に、認知症を発症した高齢者に向けて、自立ある日常をサポート・支援するための存在として作業療法というアプローチを取り入れる介護施設も増えています。
また、特別支援学校・養護学校のような発達障害分野でのリハビリの重要性も認知されてきたことから学校での作業療法士の存在は今後ますます大きくなっていくと考えられています。
作業療法士(OT)の求人・転職状況に関して
ニーズの大きい作業療法士
求人数も安定して出ている作業療法士は、リハビリ分野での専門職として一定のニーズがある職種と言えます。
ただし、どんな事業所で働くかはその後のキャリアや専門性に大きく影響しますから、作業療法士としてどのような活躍をしたいのか、どのような分野で専門性を持って行きたいかを慎重に考えた上での転職・就職活動は必須と言えます。
給与・待遇面がいい職場は競争率が高い傾向に
作業療法士の求人は、多くが医療現場です。最近では福祉事業所も増えてきていますが、比較すると待遇や給与面がいいのは医療現場。
きちんと有給休暇が取れたり、育休・産休後に復帰しやすい職場だったり、給与がいい現場は競争率が高まる傾向にあります。
専門性をいかに生かすか・伸ばすかが就職・転職活動に影響
作業療法士の資格を取る人は、現在少しずつ増えてきています。そのため、作業療法士として就職・転職をするにあたっては、その人だからこそできるという専門性を高めていくことが大切です。
また、理学療法士の資格と合わせて作業療法士の資格を持つ方もいますから、就職・転職しやすさやより良いリハビリ実施を考えてこうした資格をダブルで持つことも就職活動の可能性が広がります。
現時点では求人数なども安定していますが、将来を見据えるとどの分野での専門性を高めていくかが求人や転職活動に大きく影響すると言えます。
まとめ:将来性の大きい作業療法士だからこそ専門性をさらに深めて
作業療法士の仕事は、医療から福祉・教育の現場にも広がりつつあります。
そのため、将来性の大きい職種ではありますが、現状では理学療法士の仕事とかぶる部分が大きいのも事実です。
利用者・患者の日常生活全般を支える作業療法士として、これからどのように活躍していきたいのかをご自身の中で考えながら、転職や就職活動をしていきましょう。