介護業界は高齢化の進展を受け、ますますニーズが高まる業界として注目されています。
一方で、介護職員は慢性的な不足が叫ばれており、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、約37.7万人もの介護職員不足が推計されています。
社会的ニーズがある介護職ですが、不足の背景には低賃金や労働環境の悪さなどが指摘されているのも事実。
実際、公益財団法人介護労働安定センターの発表している「平成27年度介護労働実態調査」では介護職員が足りないと感じている事業所は半数以上の61.3%となっています。
課題の多い介護業界、ここでは、介護業界や介護職の将来性と改善られるべき問題点について見ていきましょう。
介護業界・介護職員の将来性
ますます高まる介護サービスへのニーズ
内閣府が公表している「平成28年度高齢者白書」によれば、現在の日本の高齢化率は26.7パーセント。4人に1人以上が65歳以上の高齢者となっています。
2025年には、認知症患者数が約700万人になるとも予想され、介護保険制度により要介護・要支援認定を受けた人は2013年度末で569万人に達しています。
要介護認定者数は高齢化の進展に伴い年々増加傾向にありますから、当然介護保険サービスを利用する人の数は増えることが予想されます。
こうした状況を受け、介護業界は成長産業ととらえられ、新規参入をする企業も増えています。
2025年には37.7万人が不足する介護職は今最も必要とされている仕事の一つ
高齢者人口の増加、要介護・要支援認定者の増加を受け、介護人材へのニーズは右肩上がりに増えています。
急速な高齢化に伴う介護需要の増加とは裏腹に、現在現場ではサービスを提供する介護人材が慢性的に不足しており、政府も介護人材の確保に向けた施策を数多く打ち出しています。
待遇改善、中高年齢者の新規参入促進対策など、若い世代だけでなく中高年齢者の活用も期待されている介護職、介護の仕事に就きたいと考えている方にとって、まさにこれからは介護職の売り手市場。
仕事を見つけることは未経験や無資格でも容易と言えるでしょう。
介護職員不足の原因は低年収や過酷な労働環境!?
多くの介護事業所が採用の難しさを実感! 理由は低賃金
介護人材の需給ギャップが2025年には37.7万人にもなると予測されている介護職。
公益財団法人介護労働安定センターの「平成27年度介護労働実態調査」では、介護事業所の多くが人手不足を実感しており、7割の事業所が「採用の困難さ」を感じています。
同調査では、「採用の困難さ」の原因として「低賃金」「仕事のきつさ」「社会的評価の低さ」を挙げる事業所がいずれも4割以上。
総じて現在の介護業界は、賃金が低い割に仕事が大変な仕事という認識が強いのが現状です。
介護職員の低賃金の実態
介護職は給料が安いというイメージがあり、人材不足の原因として理由に挙げる施設も多いですが、実際に介護職員の賃金はどのくらいなのでしょうか?
厚生労働省が発表している「平成26年度賃金構造基本統計調査」によれば、全産業の平均給与平均が月あたり32.9万円(42歳)であるのに対し、ホームヘルパーの賃金は22万円(44歳)。
また、福祉施設介護員でも21.9万円(39歳)となっており、産業平均から比べても低いのは確か。
政府は介護職員の確保に向けて、介護報酬を改定し、「介護職員処遇改善加算」を設け、介護職員に対して賃金アップを図った事業所に対して介護報酬を増加する対策を講じています。
実際「平成27年度介護労働実態調査」では介護職員処遇改善加算を導入した介護事業所は全体の74.2パーセントと高い比率を誇っていますが、基本給を引き上げたのはそのうち34パーセント。
約6割の事業所が「一時金の支給」という処遇改善措置を取っており、継続的に賃金アップにはつながっていない現状が浮き彫りになっています。
介護職員の低賃金・人手不足の背景には介護報酬制度が
低賃金や人手不足が常識となっている介護業界。では、問題は「賃金」であると課題がわかっているのに、なかなか有効な対策が取れていないのはどうしてなのでしょうか。
その背景には、介護保険サービスを提供する事業所の収入源となる「介護報酬制度」があります。
2015年4月に実施された介護報酬体系の改定では、事業所の収入源となる介護報酬が2.27パーセント引き下げられるマイナス改定が行われ、介護職員への処遇改善や認知症ケアに対する加算などを差し引くと介護報酬は実質4.48パーセントも下がっています。
介護報酬は事業所の運営資金や職員への賃金の元となる売上です。
この売上が引き下げとなれば、人材確保や定着を図るために賃金を上げたいと思っても、資金がないためできず、さらに低賃金・人材不足が加速するという負のスパイラルに陥っているのです。
こうした現状は、介護職員の不満にもつながっており、「平成27年度介護労働実態調査」によれば介護職員が感じている労働条件の不満として最も多いのが「人手不足」。次いで「仕事内容の割に賃金が低い」ことに対して不満を感じていることが明らかになっています。
介護の仕事を続けたいと感じている人は過半数
では、介護の仕事というのは、そんなに魅力がない仕事なのでしょうか?
何度もご紹介している「平成27年度介護労働実態調査」によれば、今の勤務先で働き続けたいと希望している介護職員は過半数を超える57.5パーセント、介護の仕事を続けたいと考えている人は更に多い65.5パーセントもいることがわかっています。
低賃金や人手不足であっても、やりがいや意義を感じて介護職を続けたいと感じている人も多いのです。
介護職員のサービス残業の現状
「介護」以外にもたくさんある介護職の日常業務
介護職員の仕事は、利用者の介護の他にもカンファレンスや室内清掃、会議、事務作業、レクリエーションの準備など様々な業務があります。
そのため、利用者さんのケアを勤務時間に行い、その他の業務は勤務時間外にサービス残業で…ということもしばしば。
更に生活相談員や介護主任、チームリーダーなど責任ある役職になればサービス残業の量はますます増えてしまいます。
サービス残業の実態
実際、介護職員の方のサービス残業はどのくらいの時間、そしてどのくらいの頻度で発生しているのでしょうか?
全国労働組合総連合(全労連)が2014年に発表した「介護施設で働く労働者のアンケート」結果報告では1日当たりの就業時間後勤務の実態を問う設問では日勤の場合「30分以上」仕事をしている人は22.9%、「1時間以上」の人は16.8%いると報告されています。
準夜勤や深夜勤・2交代夜勤でも同様の傾向であることを考えると、もはや残業が多いのは介護現場の常識といえるかもしれません。
また、同アンケートでは2013年10月のサービス残業の実態を問う設問も。結果を見てみると「サービス残業なし」と回答している人は全体の4割にも満たない38.9パーセント。多くの介護職員がサービス残業をしていることがわかります。
サービス残業の理由
一体介護職の仕事は、どのような業務でサービス残業をすることが多いのでしょうか。先ほどもご紹介した全労連の調査によれば、サービス残業の主な理由は以下の通り。
サービス残業の主な理由
- 記録の作成、確認(70.8%)
- ケアの準備や片付け(37.9%)
- 介護や委員会、研修等(31.0%)
- 利用者へのケア(30.6%)
上記の理由を見てみると、多くのサービス残業が介護記録の作成や確認にあてられていることがわかります。
毎日どんなケアを行ったか、利用者さんの体調はどうだったかなどを記録する介護日誌は、チームケアにおいてとても大切なツールです。
介護記録の作成や確認は、介護を行うにあたって必要不可欠とも言えますが、こうした事務作業が勤務時間内にできず、サービス残業せざるをえない原因には、先に挙げた人材不足などが影響しているのではないでしょうか。
介護職が働く環境や待遇の改善
政府が打ち出す待遇改善施策とは
過酷な勤務や人手不足などにより、日々の業務を疲れ切って行ってしまえば、介護ケアの質の低下にもつながってしまいます。
現に、近年増加傾向にある介護職員による利用者への施設内虐待は、人手不足により精神的・肉体的ストレスがたまってしまうことが原因と指摘する声も多く上がっています。
だからこそ、介護職の労働環境や待遇改善は喫緊の課題とも言えますが、政府はどのような施策を打ち出しているのでしょうか。
現在、国の社会保障審議会・介護保険部会では「ニッポン一億層活躍プラン」に盛り込まれている「介護人材の処遇について、月額1万円相当の改善」を実現するべく、2017年度に臨時の介護報酬改定を行う方針が示されています。
キャリアアップの仕組み構築とセットで行われることが予定されている「月額1万円相当の処遇改善」は介護職の給与アップにも直結する動きとして注目が集まっています。
介護現場を救うのは介護ロボット!?
介護職の大変さの一つとして挙げられるのが身体介護に伴う肉体的なストレスです。
介護は移乗介助など腰を使う力仕事も多く、慢性的に腰痛を抱えている介護職員の方も少なくありません。こうした現場での肉体的負担を軽減するための方策として、現在様々な介護ロボットの開発が進んでいます。
腰痛を理由に介護職を辞める人もいるくらい、身体的負担の多い介護職。介護ロボットの普及が進めば、介護職員が重労働から解放され、人手不足解消や労災事故の防止などにつながるとして期待されています。
また、レクリエーションや利用者の方の心のケアを行う存在としてコミュニケーション型ロボットの開発も進み、実際に現場で実用化されているロボットも出てきています。
介護ロボットの導入は、コストがかかるものですが、国は介護ロボットの普及を目指し、介護現場のロボット導入による改善効果などの実証実験を2016年8月からスタートしています。
実証実験の結果は、平成30年度に予定されている介護報酬改定にも盛り込む予定となっているそうですから、介護現場の救世主として普及がさらに加速するかもしれません。
介護職員として生き残るには
ここまで見てきたように、介護職という仕事は、決して理想だけで語れるほど簡単な仕事ではありません。
慢性的な人手不足からくる忙しさや低賃金は介護職員の生活に大きな影響を与え、場合によってはストレスでうつになってしまうケースも。
介護職員として生き残るためには一体どのようなことを心がけていけばいいのでしょうか。
体調管理をしっかりと
介護職員の7割が腰痛に悩まされているという報告もあるくらい、体力仕事も多い介護職。夜勤のある人であれば、生活が不規則になり慢性的な睡眠不足に悩まされることもしばしば。
体調不良や腰痛を理由に仕事を辞める人もいるからこそ、介護職として働く以上、日々の健康管理はとても大切です。
腰痛改善や予防には、正しい介護技術の習得が必須ですから、職場内での研修や自己学習に腰痛にならないための介護方法を取り入れ、日々の業務に活かすのも一つの大切な対策。
また、夜勤の多い方は慢性的な睡眠不足にならないためにも、夜勤明けの休息や睡眠時間などに工夫をしていきましょう。
スキルアップを着実に
給与が安いと言われる介護職ですが、国では待遇改善に向けたさまざまな施策を打ち出しています。こうした施策へ期待するとともに、自助努力ももちろん大切。
条件のいい職場へ移ろうと思ったり、キャリアアップによる昇給を目指すためにも、国家資格である介護福祉士の取得は目指すべきと言えるでしょう。
また、ケアマネージャーなどの資格も体力的にきつくなった際、職種を変えるという選択肢を広げることにも繋がります。
ただ漫然と日々を過ごすのではなく、生き残るためのスキルアップを常に図っておくことはとても大切です。
ストレス発散の仕方を複数持っておく
介護職は日々利用者さんと接することから「感情労働」とも言われています。そのため、真面目な人ほど、日々心にストレスをためやすく、鬱状態に陥ってしまいがち。
だからこそ、介護の仕事を長く続けていくためには上手に自分なりのストレス発散やリフレッシュの方法を持っておくことが大切です。
友人との会話や趣味など自分にあったストレス発散方法を見つけて、上手に心のストレスと付き合っていきましょう。
まとめ:低賃金や人手不足でもやりがいある介護職だからこそスキルアップを確実に
高齢化が急速に進み、制度改正が頻繁に行われるなど課題も多い介護業界。人手不足や低賃金は、一朝一夕に解決する問題ではないからこそ、根深いものがあるのは事実です。
とはいえ、今後ますます介護サービスへのニーズが高まることは間違いのないことです。社会的にも求められている介護という仕事はやりがいのある尊い仕事。
だからこそ、生き残るためにはスキルアップや体調管理などを通じて長く続けていくための努力をすることが大切です。
比較的求人数も多い介護業界。条件のいい職場に転職・就職するためにも資格などを取得し、経験を積むことをコツコツと大切にしていきましょう。